シネマの流星

映画とは魔法。どこでもドアであり、タイムマシン。映画館の暗闇はブラックホール。スクリーンの光は無数の星たち。映画より映画館のファン

言の葉の庭を訪ねて〜新宿御苑

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新宿に住んでいると6月が来るたび、梅雨より先に『言の葉の庭』が訪れる。新宿御苑を舞台に、15歳の孝雄と27歳の雪野の出逢いを描いた新海誠の第五作。

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年上の社会人の女性に惹かれた学生という点で自分は孝雄と同じ。奈良から大阪の中学に通っていた中学3年生。校舎のトイレの前に購買部があり、そこで働くお姉さんが毎朝「おはよう」と声をかけてくれた。その声と笑顔が毎朝の目覚まし時計。そのためだけに退屈な授業を我慢していた。お姉さんの名前は知らない。その後、地元の駅で何度か会い、分かったのは同郷であること。高校生に上がり、校舎が変わってからは会わなくなった。結局、挨拶を交わしただけの片想いだった。

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令和3年の東京は梅雨入りしたのに、晴れの日ばかり。この日のために買ったゴッホの『ひまわり』の傘も使わなかった。

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訪れるのは、上京してすぐの2014年以来。あの時は桜の季節だった。自分が新宿に住む理由である『シティハンター』のエンディング曲にも登場する。Still Love Her。

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ふたりが雨宿りを重ねる東屋は日本庭園の奥にある。孝雄が入る新宿門から少し遠く、雪野が通う千駄ヶ谷門からは近い。

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朝9時の開園と同時に行ったので、まだ人がいない。孝雄と雪野の気配が薫ってくるようだ。本来なら東屋には雨が似合うが、晴れていても瑞々しい。

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初対面の朝、雪野は孝雄に万葉集の歌を詠む。

鳴る神の 少し響みて  さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ

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どんな女性も常に見えないSOSを放っている。ここではない何処かへ連れて行ってくれる存在を待っている。孝雄は雪野がひとりで歩けるように靴を作った。そして、靴を作ることで少しでも大人に近づこうとした。

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万葉集では恋を孤悲と表したが、この映画は「愛」の物語。雪野を自分に振り向かせたいからではなく、雪野がひとりで歩けるよう靴を作ろうとした。

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新宿御苑内にあるスターバックスで雪野と同じ珈琲を買い、孝雄と同じく家で作ったタマゴサンドを昼食に。自分はまだまだ、この映画のことを何も知らない。孝雄の気持ち、雪野との関係性をもっと深く、一途に知りたい。

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来年は雨の日にここを訪れよう。

鳴る神の 少し響みて 降らずとも 我は留まらむ 妹し留めば

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