シネマの流星

映画とは魔法。どこでもドアであり、タイムマシン。映画館の暗闇はブラックホール。スクリーンの光は無数の星たち。映画より映画館のファン

ヴィム・ヴェンダースを放浪する

私は夢の中でも映画を撮る。カメラさえあれば。 ヴィム・ヴェンダースに触れたのは2024年。映画ファンとして、あまりにも遅すぎる。しかし、映画はタイミング。作品は変わらないのに、いつ観るかによって印象は大きく変わる。昭和でも平成でも2023年の終わり…

PERFECT DAYS

「自分探しの旅」という使い古された言葉があるが、それは遠くに行かなくてもいい。良い映画もまた自分を正直にさせ、自分を発見する。作品と向き合っているようで、その実は自己と向き合っている。 『PERFECT DAYS』は光と色と音が主演の映画であり、闇と沈…

映画『WILL』と東出昌大の舞台挨拶と

東出昌大が狩猟生活を始めるきっかけと、その生活を追うドキュメンタリー映画『WILL』。命を撃ち、命を体内に入れる。東出昌大の狩猟には逞しさと儚さが同在する。命を奪う残酷は愛と美。ディアハンターのカヴァティーナが似合う俳優になった。人間は愛があ…

ルパン三世 カリオストロの城

『カリオストロの城』の本編は冒頭の4分のみ。炎のたからものが終わるオープニングまで。冒険の舞台であるカリオストロ公国に向かう旅情こそが作品の心臓であり、ロードムービー。目的地に到着するまでが浪漫。 「旅とは風景を捨てること」と言ったのは寺山…

水深ゼロメートルから

山下敦弘の『オーバー・フェンス』ではオダギリジョーがホームランをかっ飛ばし、『水深ゼロメートルから』ではプールにホームランが飛んでくる。男と女の対極的な構図。 砂だらけのプールは女という砂漠であり荒野。男子禁制の土俵。メイク、生理、恋バナ。…

悪は存在しない〜濱口竜介とアントニオ猪木

『ドライブ・マイ・カー』『偶然と想像』に続いて濱口竜介は問題作と秀作が一体になった映画を届けてくれた。すなわち令和の大傑作。 この映画を左脳で語るのは愚の骨頂。理屈などいらない。そもそも「悪は存在しない」というタイトルが破綻しているのだから…

たったひとりの最終決戦〜DRAGON BALL

1990年10月17日。生き方を決定づけられた。12日後に7歳になる前、この日が人生を産まれ直したバースデーだった。 ドラゴンボールのTVスペシャル『たったひとりの最終決戦』 サラリーマンの悲哀と抵抗、男の死に様を描いたアメリカン・ニューシネマ的アニメ。…

ドラゴンボール7つの奇跡

人生で最も影響を受けた漫画が『ドラゴンボール』 小学生は間違いなく「ドラゴンボールを読むために生きていた6年間だった」と断言できる。毎週月曜日の週刊少年ジャンプが生き甲斐だった。奈良県の桜井市民会館で上映される映画を心待ちにしていた。あの映…

すずめの戸締まり〜神戸三宮

宮崎から岩手まで全国を縫う『すずめの戸締まり』の中でも特に重要な地が神戸である。「神の戸」であり、未曾有の大地震があった場所。本作のテーマをクリティカルに表す場所。 三ノ宮は神戸のなかで自然の色が濃い。観覧車で戸締まりを行った摩耶山が隣接し…

雨の言の葉の庭〜Rain〜

令和六年6月18日、新宿に大雨が降った。火曜日。憂鬱な気分になるが今年は違う。この雨を待ち侘びていた。雨の言の葉の庭に行ける。 『言の葉の庭』は靴に人生を捧げる15歳の孝雄が、27歳の古典教師・雪野に靴を作る物語。孤悲を卒業し、愛に向かう。旅立ち…

言の葉の庭のプリマヴェーラ

プリマヴェーラ(春)が深まる5月。藤棚が見たくて言の葉の庭を訪れた。4連休初日。雲ひとつない青空。お日柄もよく、雨を主人公にした映画とは真逆の世界が広がった。9時の開園前から行列。近所のスタバで買ったコーヒーを手にゲートオープンを待っている。…

雪の言の葉の庭

何年かに一度、東京に大雪が降るようになった。最初は上京してすぐの2014年。30センチ以上の積雪を記録した「平成26年の大雪」。これが登山家との出逢いを産んでくれた。大雪が降るたびに代官山の夜を思い出す。数年前から雪が積もったら行こうと決めていた…

君の名前を結びに〜『君の名は。』の組紐

新海誠のデビュー20周年にあたる令和四年に『君の名は。』の舞台を巡ってきた。新宿、諏訪湖。フィナーレを飾るのが飛騨古川。糸守町に最も近い町。「聖地巡礼ですか?」と訊かれるが、そうではない。新海誠が描く舞台は聖地ではなく”現場” そこに行けば何か…

君の名前を奏でる湖〜『君の名は。』のカタワレドキ

『すずめの戸締り』の公開を前にして新海誠の過去作がIMAX上映された。9月30日(金)の初日、トーホーシネマズ新宿で『君の名は。』を観た。金曜13時でも満席に近い。学生が多いのはリアルタイムで観ていないからだろう。良いワインが時間を栄養にするように…

塔のむこう、約束の場所〜津軽と雲のむこう、約束の場所

新海誠の第2作『雲のむこう、約束の場所』の舞台は本州最北端の東津軽郡・外ヶ浜町。令和4年に相次いだ自然現象を『天気の子』で予言していたと言える。8月3日の豪雨に見舞われた津軽半島の北端は土砂崩れにより津軽線がストップ。復旧の目処は立っておらず…

彼女と彼女の猫をさがしに〜埼玉武蔵浦和

新宿を愛する新海誠は、新宿生まれの夏目漱石と似ている。夏目漱石のデビュー作が『吾輩は猫である』、新海誠の処女作が『彼女と彼女の猫』 「のんきと見える人々も、心の底をたたいてみると、どこか悲しい音がする」 吾輩は猫であるの一節は、ありふれた日…

君の名前を追いかけて〜『君の名は。』と新宿

『君の名は。』は高校生の男女の「入れ替わり」を通して「結び」を描いた新海誠の第6作。直前に制作されたZ会のCM『クロスロード』をプレリュードに様々な要素をクロスさせている。 ひとつが名前。「立花 瀧」と「宮水 三葉」。瀧は姓に植物、名に水があり、…

15年目の秒速5センチメートル

2022年は新海誠のデビュー20年目にあたり、『秒速5センチメートル』公開から15年が経つ。いまだこれを超えるアニメ映画は現れておらず、今後も現れないと思っているし、現れてほしくない。昨年も同じ「さくらの日」である3月27日に東京の舞台を訪ね歩いた。…

天気の子を見上げて

令和四年は6月に梅雨がなくなった。『天気の子』の公開から丸3年を迎えた7月19日は、各地を未曾有の大雨が襲った。まるで映画を再現したかのように。『天気の子』の舞台はすべて東京。これは新海誠の7作で唯一。主な舞台は新宿、池袋、田端、そして神津島。…

秒速5センチメートルを巡る

桜の季節になると『秒速5センチメートル』が観たくなる。毎日、目覚ましは『想い出は遠くの日々』。3月に入るとソワソワする。作品を見ることはもちろん、舞台となった場所も訪れたい。第2章『コスモナウト』は種子島だが、そのほかは新宿から近い。 代々木…

言の葉の庭を訪ねて〜新宿御苑

新宿に住んでいると6月が来るたび、梅雨より先に『言の葉の庭』が訪れる。新宿御苑を舞台に、15歳の孝雄と27歳の雪野の出逢いを描いた新海誠の第五作。 年上の社会人の女性に惹かれた学生という点で自分は孝雄と同じ。奈良から大阪の中学に通っていた中学3年…

星を追う子どもをさがして〜新海誠の故郷・小海町

新海誠の4作目『星を追う子ども』は、死と旅がテーマ。死はさらに大きなものの一部になることであり、人間は動物や植物の命を奪い、それを食すことで生きている。動物や植物は命を人間に捧げることで、別の大きな存在に変わる。生きる側も生を奪われる側も儚…

ほしのこえを聴きに〜埼玉県新座

20年前の2002年2月2日。下北沢トリウッドで新海誠がデビューした。当時、劇場公開された唯一の映画館であり、南口商店街の路地裏に佇むわずか45席の小さな母胎。ようやく昨年から待ち望んだ『ほしのこえ』の記念上映が催された。銀河でいちばん好きな監督の…

細田守 虹をかける地平線

夏の入道雲を眺めるたび、大学生の頃、彼女を自転車の後ろに乗せて京都の鴨川沿いを走っていた日を思い出す。そう話してくれた人がいた。 新海誠が「音」を操るマエストロなら、細田守は「絵」の語り部。どこまでも視覚的であり、絵が物語る。絵本の世界に迷…

EUREKAユリイカ〜21世紀ナンバーワン日本映画

21世紀以降、いまだ『EUREKA』を超える実写の日本映画は現れていない。 映画監督の仕事は役者の演出でも、映像や音楽をこねくり回すことでもない。世界に眼差しを提供すること。 青山真治は白黒でもセピア色でもなく、温もりのある土色のフィルタを観客に提…

映画『めためた』:不自由の翼を広げて

映画は暗闇の世界で観るプラネタリウム。テレビではキラキラ光るキャラクターも映画では途端に味気なくなる。ちょっと救いようのない人物たちにこそシネマの神様は微笑む。スクリーンは金幕ではなく銀幕。映画は金閣寺ではなく銀閣寺。映画界にはメッキの金…

ドラゴンボール 魔神城のねむり姫

人生で初めて映画館で観たのが『魔神城のねむり姫』である。記憶はないが思い出はある。橿原だったのか奈良だったのか、それとも地元の桜井だったのか。事実は迷子。記憶から家出した。でも初めて観た映画は『魔神城のねむり姫』。そうあって欲しい。それだ…

木村拓哉と吉岡里帆の共通分母

ある映画メディアの編集長とお酒を飲む機会があった。好きな女優を聞かれ、吉岡里帆と答えたのだが、容姿が美しすぎるせいで過小評価されている。吉岡里帆の演技の質は木村拓哉と同じ。多くの役者は役に近づこうとするが、吉岡里帆や木村拓哉は自分の中に役…

Sin clock

2016年『アリーキャット』から7年、最高純度にして最高密度の窪塚洋介が帰ってきた。真骨頂である「透明な怒り」「漆黒の桜」「真っ赤な雪」をスクリーンに刻みつけてくれた。 監督の牧賢治は商業デビュー作。普段は会社員をやっている。これまでは借金をし…

とべない風船〜東出昌大の高みと弱み

人生は出逢いと喪失がグルグル回る車輪。平行移動でも垂直移動でもなく流転。地球という母胎で繰り広げられる回転運動だ。 映画『とべない風船』は瀬戸内海の島が舞台。平成の広島豪雨によって妻と息子を亡くした憲二(東出昌大)は庭先に息子との想い出の黄…