シネマの流星

映画とは魔法。どこでもドアであり、タイムマシン。映画館の暗闇はブラックホール。スクリーンの光は無数の星たち。映画より映画館のファン

ヴィム・ヴェンダース『さすらい』〜沈黙を運ぶ男たち、映画が終わりゆく道を、それでも走り続ける

『さすらい』(原題:Im Lauf der Zeit/英題:Kings of the Road)は、1976年に製作された西ドイツ映画。監督はヴィム・ヴェンダース。『都会のアリス』『まわり道』に連なるロードムービー3部作の掉尾を飾る作品で、上映時間は176分と最長である。 東ドイ…

『わが谷は緑なりき』〜過去形が人を支えるとき。失われた谷ではなく、受け渡された時間

わが谷は緑なりき(原題:How Green Was My Valley)は、1941年に公開されたアメリカ映画。監督はジョン・フォード。19世紀末から20世紀初頭のイギリス・ウェールズ地方、炭坑を中心に成り立つロンダ谷を舞台に、一家の記憶を通して共同体の変化と喪失を描く…

高畑勲『かぐや姫の物語』人間であることの痛み、人間の泥を愛せるか

『かぐや姫の物語』は、2013年に公開された日本のアニメーション映画。監督は高畑勲。原作は日本最古の物語文学『竹取物語』。古典に新たな命を吹き込み、少女の誕生から別れまでを詩情で描いた、スタジオジブリの異色作。日本のアニメ映画としては破格の、…

『新幹線大爆破』〜減速できない国のサスペンス、止まれないのは列車ではなく社会

『新幹線大爆破』は、1975年7月5日に日本で公開された東映製作・配給の日本映画。「走行速度が80km/hを下回ると爆発する爆弾が新幹線に仕掛けられた」という極限状況のもと、犯人、国鉄、警察、そして国家が巻き込まれていくサスペンス大作。 主演に 高倉健…

『タワーリング・インフェルノ』〜高く建てすぎた夢に、逃げ道はあったのか

『タワーリング・インフェルノ』(原題:The Towering Inferno)は、1974年に公開されたアメリカ映画。ワーナー・ブラザース映画と20世紀フォックス映画という二大スタジオが手を組んだ、当時としては破格のスケールを誇るパニック映画である。 地上約550メ…

『アメリカン・グラフィティ』〜青春は終わったあとに始まる

アメリカン・グラフィティ(原題:American Graffiti)は、1973年に公開されたアメリカ映画。1962年のカリフォルニア州モデストを舞台に、高校を卒業した若者たちが、それぞれの未来へと向かう直前に過ごす「最後の一夜」を描いている。 物語は一晩の出来事…

『ドラゴン怒りの鉄拳』〜セリフを持たない革命 、映画の文法を変えた肉体

『ドラゴン怒りの鉄拳』(原題:精武門)は、1972年に公開された香港映画。主演はブルース・リー。『ドラゴン危機一発』に続く第2作であり、香港公開後わずか2週間で興行記録を更新、アジア全域に衝撃を与えた。 20世紀初頭の上海を舞台に、師の死の真相を追…

『ゴッドファーザー PART II』〜父は家族を得て、息子は家族を失った

『ゴッドファーザー PART II』(原題: The Godfather Part II )は、1974年に公開されたアメリカ映画。1972年の『ゴッドファーザー』の続編であり、前日譚でもある。 スタッフ 監督:フランシス・フォード・コッポラ 脚本:マリオ・プーゾ、フランシス・フォ…

『波止場』〜沈黙が終わる場所、正義は叫ばれず、殴られて、立ち上がる

『波止場』(原題:On the Waterfront)は、1954年公開のアメリカ映画。ニューヨークの港湾地区を舞台に、暴力と沈黙によって支配された労働現場で、一人の男が「声を持つこと」を選び取るまでを描く。 スタッフ 監督:エリア・カザン 脚本:バッド・シュー…

『ノートルダムの傴僂男』〜一杯の水が、世界を変えてしまった

『ノートルダムの傴僂男』は、1923年に公開されたアメリカ映画。ヴィクトル・ユーゴーの小説『ノートルダム・ド・パリ』(1831年)を原作とするサイレント大作である主演は“変身の名優”として知られるロン・チェイニー。巨大なセットで再現された中世パリと…

『アパートの鍵貸します』〜鍵を返した夜、男は恋を始めた

『アパートの鍵貸します』(The Apartment)は、1960年に公開されたアメリカ映画。監督はビリー・ワイルダー。ニューヨークの保険会社を舞台に、出世と孤独のはざまで揺れる平凡な男と、同じ職場で働く女性の不器用な関係を描いたロマンティック・コメディで…

『エンドレス・サマー』〜夏は終わる、更新は終わらない

『エンドレス・サマー』(The Endless Summer)は、1966年に公開されたアメリカのドキュメンタリー映画である。監督はブルース・ブラウン。自らカメラを回し、二人の若きサーファーとともに世界を巡り、「夏を追いかけ続ける」という単純で大胆な発想を映画…

ゴダール『勝手にしやがれ』〜革命、息切れ、ジャンプカットで世界を蹴飛ばせ

『勝手にしやがれ』は、1960年公開のフランス映画。監督・脚本はジャン=リュック・ゴダール、原案はフランソワ・トリュフォー。新外映に勤務していた秦早穂子がパリ近郊のジョアンヴィルにある撮影所の作業室で20分ほどのラッシュを見て、買い付けを決め、…

『ラスト・ピクチャー・ショー』〜何も起こらない町で、すべてが終わっていく

『ラスト・ショー』は、1971年に公開されたアメリカ映画。原作はラリー・マクマートリーによる同名小説で、1950年代初頭のテキサスの小さな町を舞台に、若者と大人たちが迎える静かな終わりを描いている。全編モノクロで撮影された。 スタッフ 監督:ピータ…

地本草子『路地裏テアトロ』〜映画はスクリーンの外で始まる

著者:地本草子 出版社:ぽにきゃんBOOKS 発売日:2014年4月3日 ページ数:353ページ あらすじ 川越の路地裏に佇む、古ぼけた小さな映画館・テアトロ座。出不精、怠け者、モラトリアムの権化と謳われた大学生の斎藤三郎太は、同級生に強引に連れていかれたテ…

『映画館と観客の文化史』〜不完全な映画館が、映画を面白くしていた

著者:加藤 幹郎 出版社:中公新書 発売日:2006年7月1日 ページ数:302ページ 本のメモと目次 序章 理論的予備考察 第1部 アメリカ編 第1章 映画を見ることの多様性 第2章 一九〇五年から三〇年代までの映画館 第3章 オルターナティヴ映画館 第4章 テーマパ…

『真夜中のカーボーイ』〜撃つ力なき放浪者の反逆、アメリカを拒絶する友情

『真夜中のカーボーイ』(原題:Midnight Cowboy)は、1969年製作(日本公開1969年)のアメリカ映画。監督はジョン・シュレシンジャー、脚本はウォルド・ソルト。ジェームズ・レオ・ハーリヒーの同名小説を原作とし、主演はジョン・ヴォイトとダスティン・ホ…

『ビッグ・ウェンズデー』〜波は去る、だから人生は続く

『ビッグ・ウェンズデー』(Big Wednesday)は、1978年に制作された、サーフィンを通して三人の若者を描いた、アメリカ合衆国の青春映画である。井筒監督は、この作品を奈良の尾花劇場で観た。「これが僕にとっての『ラスト・ショー』だ」と、著書で語ってい…

『無宿』〜行き止まりという桃源郷

『無宿(やどなし)』は、1974年に公開された日本映画。製作は勝プロダクション。高倉健と勝新太郎が唯一共演した貴重な作品。アラン・ドロン主演のフランス映画『冒険者たち』の構図を下敷きに、男二人と女一人が行き場を失ったまま海へ向かう、和製ロード…

『荒馬と女』〜荒野に立つ者たち、完成しない人生の誠実さ

『荒馬と女』(原題: The Misfits)は、1961年公開のアメリカ映画。クラーク・ゲーブル、マリリン・モンローの遺作となった。原題の「The Misfits」は、「社会不適合者」の意味。 スタッフ 監督:ジョン・ヒューストン 脚本:アーサー・ミラー 製作:フラン…

『旅の重さ』〜持ち帰れない重さを、少女は歩いた

『旅の重さ』は、1972年に公開された松竹製作のロードムービー。監督は斎藤耕一、原作は素九鬼子の同名小説。四国を舞台に、家出した16歳の少女が遍路道を歩きながら、人と出会い、別れ、体験を重ねていく。 スタッフ 監督:斎藤耕一 脚本:石森史郎 原作:…

『兵隊やくざ』〜並走する不良、暴力と理屈が、同じ場所に立った

『兵隊やくざ』は、1965年に公開された大映映画。監督は増村保造、主演は勝新太郎と田村高廣。第二次世界大戦下の満州を舞台に、軍隊という巨大な組織の内部で、決して馴染むことのない二人の男が並走する姿を描いた作品である。戦争映画でありながら、敵と…

『ピンク・パンサー4』〜世界は、少し歪んだままのほうがいい

『ピンク・パンサー4(原題:Revenge of the Pink Panther)』は、1978年に公開されたアメリカ=イギリス合作のコメディ映画。クルーゾー警部を主人公とするピンク・パンサー・シリーズ第5作であり、セラーズが生前に完成させた最後の一本である。 主人公不…

『デリンジャー』〜赤いドレスの先、神話の空席

『デリンジャー』(原題:Dillinger)は、1973年制作のアメリカ合衆国の映画。ジョン・ミリアス。ミリアスの映画監督デビュー作品である。1930年代に実在したギャング、ジョン・デリンジャーを描く。 スタッフ 監督・脚本:ジョン・ミリアス 製作:バズ・フ…

『ピンクの豹』〜優雅に転ぶ、不条理はエレガンスのかたちでやってくる

【映画レビュー】ブレイク・エドワーズ監督『ピンクの豹』(1963)—イタリアの雪原とローマを舞台に、貴族怪盗と空回り警部が織りなす“恋と宝石”のコメディ。実写×アニメの洒脱な序章とマンシーニの名曲が、勘違いの世界を軽やかに彩る。

チャップリンおすすめ映画ランキングTOP10〜人間という奇跡、優しさと自由の教科書

チャールズ・チャップリンの映画は、公開から100年が経った今も、人間とは何かを静かに照らし続けている。 笑いは優しさであり、小さな自由でもある。涙は弱さであり、同時にゆずれない尊厳でもある。身体は言葉を超えた思想であり、揺れながらも前へ進む意…

映画『国宝』〜ピュアという名の魔界、芸に堕ちて、白くなる

『国宝』は、2025年公開の日本映画。吉田修一の同名小説を原作とし、『流浪の月』の李相日監督がメガホンを取った。任侠の家に生まれながらも、歌舞伎の世界に飛び込み、芸の道に人生を捧げた激動の人生を描いた人間ドラマである。 国宝は国家や文化の「価値…

『バニシング・ポイント』〜疾走だけが、男を自由にした、名前を捨てて、アクセルを踏む

『バニシング・ポイント』は、1971年に公開されたアメリカ映画。荒野と高速道路を舞台に、一台の車と一人の男が、ひたすら前へ進み続けるロードムービーであり、同時に70年代アメリカの空気そのものを封じ込めた作品である。 白いダッジ・チャレンジャーが走…

阪東妻三郎おすすめ映画〜豪放で、無防備、その芝居は生きものだった

阪東妻三郎の映画を観ると、芝居の「大きさ」に圧倒される。誇張ではない。画面に奥行きがあり、動きに幅があり、ひとり立つだけで場の空気が変わる華がある。その大きさは豪放さだけで成り立ってはいない。 打ち上げ花火のような豪快さの内側に、線香花火の…

『忠臣蔵 天の巻・地の巻』〜送り出す覚悟、受け取る沈黙、剣を抜かずに、すべてを斬る

『忠臣蔵 天の巻・地の巻』は、1938年に公開された日本映画。監督はマキノ正博と池田富保。主演は阪東妻三郎。日活が総力を挙げ、東西撮影所のスターを結集して製作した大作であり、赤穂事件の発端から城明け渡しまでを描く、いわば「討入り以前」に焦点を当…