面白い作品は必ず2回観るが、あえて脳内で再上映し、しばし体験を熟成させたくなる。ありがちな学園ものとは少し違う、甘酸っぱい果実ではなく、ニンニクと鷹の爪の効いたペペロンチーノのような作品。
座頭市の勝新が好きな女子高生の物語で、『大菩薩峠』の片岡千恵蔵に着目している。その女子高校生が夏に時代劇の映画を撮るという、よくある話。大きな感動が襲うわけでも、好きなジャンルでもない。
けど、ようやく日本映画に撮って欲しかったものを見れた。アニメを超える実写ならではの超現実のラスト。
『時をかける少女』で細田守が実写をアニメに生まれ直したように、松本壮史監督は細田アニメを実写に転生し、未来をつないだ。
高校生は今を懸命に生きているようで、実際は未来に挑んでいる。学生生活の1ページ1ページは未来への果たし状。
主人公のハダシは映画部のライバルとの勝負論を超え、最後は時空との決闘を選択する。映画も人生もすべては未完。だから、そこに永遠が存在する。
このシュールなラストシーンが心を打つ理由はひとつ。人生は目の前の現実や事実が大切ではなく、どうあろうとするか、その姿勢や意志が何より大切であり、それが若者のすべてだと、我々は知っているからだ。
サマーフィルムにのっての概要
- 公開年:2021年8月6日
- 監督: 松本壮史
- 出演者:伊藤万理華、金子大地、河合優実
- 撮影:岩永洋、山崎裕典
- 脚本:三浦直之(ロロ)、松本壮史
- 音楽: 伊福部昭
- 主題歌:Cody・Lee(李)「異星人エイリアンと熱帯夜」
- 配給:ハピネットファントム・スタジオ
- 上映:97分
ドラマ、CM、MVなどを手掛けてきた松本壮史の初の長編映画作品。デビュー作ならではの瑞々しさが宿っている。キャッチコピーは「私たちの青春は、傑作だ。」
あらすじ
高校3年生のハダシは、時代劇映画に夢中だが、所属する映画部ではキラキラした青春恋愛映画ばかり制作していることに不満が溜まっている。ハダシのイメージする武士役そのままの少年・凛太郎と出会う。 ハダシは幼なじみのビート板、ブルーハワイと個性豊かな仲間たちを集め、彼の出演する映画を制作し、文化祭での上映をしようとするが、凛太郎はタイムトラベルで現代にやって来た未来人だと知ってしまう。
編集後記
『サマーフィルムにのって』の中には未来には映画がなくなっているエピソードが出てくる。果たして、それは現実になるのか。ヴィム・ヴェンダースが今作を観たら、ゴダールが観たら何というだろうか。
作品に登場する映画・座頭市