映画レビュー
人生のベストムービーを訊かれると『ロッキー』と即答する。その瞬間、質問者の顔がこわばり、「?」が広がる。すぐ理由を聞かれるが、単純な疑問符でなく「なに言ってんの?」というニュアンスが含まれている。ある映画メディアの編集長からは「趣味が良く…
我らが三船敏郎、俺たちのチャールズ・ブロンソン、私たちのアラン・ドロン。 日本酒(十四代)、バーボン(ワイルドターキー)、赤ワイン(ロマネ・コンティ)をステアしたら「荒野」というカクテルができる。最後にウルスラ・アンドレスというチェリーを添…
公開年:2023年11月25日 監督:鈴木宏侑 出演者:新井秀幸、和座 彩、錫木うり、鍛代良 、 久保田翔、橋本つむぎ、柳谷一成、池内明世 、 金谷真由美、野呂健一 撮影:近藤康太郎 脚本:新井秀幸 音楽: バッハ、ベートーヴェン 配給:マーブルダンス 上映:…
面白い作品は必ず2回観るが、あえて脳内で再上映し、しばし体験を熟成させたくなる。ありがちな学園ものとは少し違う、甘酸っぱい果実ではなく、ニンニクと鷹の爪の効いたペペロンチーノのような作品。 座頭市の勝新が好きな女子高生の物語で、『大菩薩峠』…
座頭市は「月」である。闇夜で、おたねを優しく見守る光。 三隈研次は時代劇×ヤクザという2本の刀を重ねることで、至高の映画を生み出した。 呼吸の乱れ《聴覚》で平手の病を察する座頭市、右肩の筋肉《視覚》で座頭市の執念と力量を察する平手。《感覚》と…
女の情念を通して、男と女を描く。 源十郎を堕として呪い殺そうとする死霊。 命を賭しても我が子を守る母。 犯されて女郎になっても生まれ直す女房。 女は「雨」のごとく濡れ、美しさは儚い。 男は「月」と同じく女という太陽がなければ輝けない。 月が最も…
2021年のベストムービーであり史上最高の音楽ライブ映画。 「歌」はミュージシャンが作るが、「音楽」は観客と一緒に創る。音楽に参加する観客もアーティストのひとり。 スマホもコロナもSNSも”雑音”がない時代。そこには不可能なんてないと思わせる無垢な熱…
『ドライブ・マイ・カー』『偶然と想像』に続いて濱口竜介は問題作と秀作が一体になった映画を届けてくれた。すなわち令和の大傑作。 この映画を左脳で語るのは愚の骨頂。理屈などいらない。そもそも「悪は存在しない」というタイトルが破綻しているのだから…
人生で初めて映画館で観たのが『魔神城のねむり姫』。記憶はないが思い出はある。橿原だったのか奈良だったのか、それとも地元の桜井だったのか。事実は迷子。記憶から家出した。初めて観た映画は『魔神城のねむり姫』。そうあって欲しい。それだけが真実。…
原題:The Cincinnati Kid 公開:1965年10月15日 日本:1965年10月30日 監督:ノーマン・ジュイソン 出演:スティーブ・マックイーン、エドワード・G・ロビンソン 撮影: フィリップ・H・ラスロップ 脚本:リング・ラードナー・ジュニア、テリー・サザーン …
原題:Scarecrow 公開:1973年4月11日 日本:1973年9月22日 監督:ジェリー・シャッツバーグ 出演:ジーン・ハックマン、アル・パチーノ 撮影:ヴィルモス・スィグモンド 脚本:ギャリー・マイケル・ホワイト 音楽:フレッド・マイロー 配給: ワーナー・ブ…
原題:Fight Club 公開:1999年10月6日 日本:1999年12月11日 監督: デヴィッド・フィンチャー 出演:エドワード・ノートン、ブラッド・ピット、ヘレナ・ボナム=カーター 撮影:ジェフ・クローネンウェス 脚本:ジム・ウールス 原作:チャック・パラニュー…
原題:Annette 公開:2021年7月6日 日本:2022年4月1日 監督:レオス・カラックス 出演:アダム・ドライバー、マリオン・コティヤール、サイモン・ヘルバーク 撮影:カロリーヌ・シャンプティエ 脚本: レオス・カラックス、ラッセル・メイル、ロン・メイル …
原題:À bout de souffle(息切れ) 公開:1960年3月16日 日本:1960年3月26日 監督:ジャン=リュック・ゴダール 出演:ジャン=ポール・ベルモンド、ジーン・セバーグ 撮影:ラウール・クタール 脚本:ジャン=リュック・ゴダール 原案 フランソワ・トリュ…
原題:Before Sunrise 邦題:恋人までの距離 公開:1995年1月27日 日本:1995年9月2日 監督:リチャード・リンクレイター 出演:イーサン・ホーク、ジュリー・デルピー 撮影:リー・ダニエル 脚本:リチャード・リンクレイター、イーサン・ホーク、キム・ク…
原題:Les Amants du Pont-Neuf 公開:1991年10月16日 日本:1992年3月28日 監督:レオス・カラックス 出演:ドニ・ラヴァン、ジュリエット・ビノシュ 撮影:ジャン=イヴ・エスコフィエ 脚本:レオス・カラックス 音楽:コダーイ・ゾルターン、デヴィッド・…
公開年:1983年8月6日 監督:山田洋次 出演者:渥美清、都はるみ、下條正巳、三崎千恵子など 撮影:高羽哲夫 脚本:山田洋次、朝間義隆 音楽:山本直純 配給:松竹 上映:101分 あらすじ シリーズ31作目、1983年8月、お盆の公開。舞台は新潟、マドンナは都は…
木村拓哉のCMが凄いのは、商品と一体化し、自らの細胞を消費者に気づかれないように変えらているからだ。NikonのCMがわかりやすい。フルサイズでは剛健、入門一眼レフでは冒険心、デジカメでは家庭的と、そのカメラに合わせて眼光と眼差しを変えてきた。カメ…
山下敦弘の『オーバー・フェンス』ではオダギリジョーがホームランをかっ飛ばし、『水深ゼロメートルから』ではプールにホームランが飛んでくる。男と女の対極的な構図。 砂だらけのプールは女という砂漠であり荒野。男子禁制の土俵。メイク、生理、恋バナ。…
栗城史多さんほど、その死が複雑なクライマーはいない。 亡くなってからも批判の書籍が何冊も出版され、SNSの誹謗中傷がバズり、ネットの掲示板には毎日のように悪口が書き込まれる。 批判は栗城さんの登山スタイルに対するものだが、誰も栗城さんのヒマラヤ…
人はどんなときに短歌を詠むのだろう? 胸を締めつけるほどの感動に出逢い、それを閉じ込めて永遠にしたいとき。俵万智の『サラダ記念日』がそうだ。石川啄木のように絶望の淵に立ったとき、苦しみに羽を生えさせて昇華させる場合もある。 短歌を愛した尾崎…
『カリオストロの城』の本編は冒頭の4分のみ。炎のたからものが終わるオープニングまで。冒険の舞台であるカリオストロ公国に向かう旅情こそが作品の心臓であり、ロードムービー。目的地に到着するまでが浪漫。 「旅とは風景を捨てること」と言ったのは寺山…
シリーズ第1作『First Blood』の原題を、日本は『ランボー』と人物名のタイトルで上映した。5作目の『ランボー/ラスト・ブラッド』はシリーズ完結篇であり、いよいよランボーとは何者なのか?を定義するタイミングである。 ミャンマーから故郷アリゾナの牧場…
『レヴェナント:蘇えりし者』は2010年代ナンバーワン映画である。監督のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥは2位の『バードマン』と合わせての1、2フィニッシュで10年間を駆け抜けた。 映画が公開されたのは2016年の4月。半年後、登山家の撮影隊として…
映画『八甲田山』は、世界映画史において最高傑作の一つであり、クライマーにとっては呪いの映画である。 一コマたりとも無駄がなく、169分の上映時間は究極の凝縮であり、崇高なる昇華。 映画は人間が成し得る最大の饗宴であり、『八甲田山』がそう。原作は…
『エヴェレスト神々の山嶺』は自分の血だ。酷評を耳にすると、家族がバカにされたように感じてしまう。あなたにだってあるだろう。他人事ではいられない、自分自身と呼べる一作が。映画が公開された半年後の2016年9月、チベットの標高5900mで1ヶ月半のキャ…
素晴らしい映画は生活音を音楽に変える。何気ない会話、雨や風、車や乗り物。ありふれた音を心情を代弁する音符に変える。風景をメロディに化身する。その最高峰が新海誠であり、次ぐのが細田守。そして『ルックバック』の監督・押山清高もあとに続く。haruk…
私は夢の中でも映画を撮る。カメラさえあれば。 ヴィム・ヴェンダースに触れたのは2024年。映画ファンとして、あまりにも遅すぎる。しかし、映画はタイミング。作品は変わらないのに、いつ観るかによって印象は大きく変わる。昭和でも平成でも2023年の終わり…
夏の入道雲を眺めるたび、大学生の頃、彼女を自転車の後ろに乗せて京都の鴨川沿いを走っていた日を思い出す。そう話してくれた人がいた。新海誠が「音」を操るマエストロなら、細田守は「絵」の語り部。どこまでも視覚的であり、絵が物語る。絵本の世界に迷…
人生最良の日は?と訊かれたら2000年7月30日、横浜アリーナで長州力vs.大仁田厚を観た日と答えている。引退試合のテレビを見て好きになった長州力。生では観られないと諦めていた男をリングに戻してくれた。大仁田厚の電流爆破は宇宙が生まれるビッグバン。…