シネマの流星

映画とは魔法。どこでもドアであり、タイムマシン。映画館の暗闇はブラックホール。スクリーンの光は無数の星たち。映画より映画館のファン

映画レビュー

『バリー・リンドン』〜銃弾は敗北ではなく、帰郷の扉、偽りの頂から、本当の自分へ

『バリー・リンドン』(Barry Lyndon)は、1975年に公開された歴史映画。18世紀ヨーロッパの社会階級、戦争、結婚、賭博、決闘。人間の運命が“偶然と欲望”に揺さぶられる世界を、スタンリー・キューブリックが圧倒的な視覚美で描いた大作。原作はサッカレー…

『殺しの分け前/ポイント・ブランク』〜足音のない旅、終わらない点と線

『殺しの分け前/ポイント・ブランク』(Point Blank)は、1967年のアメリカ映画。ジョン・ブアマン監督によるネオ・ノワールの代表作であり、ドナルド・E・ウェストレイク(リチャード・スターク名義)の小説「悪党パーカー/人狩り」をフィルムに移し替え…

『グラン・プリ』〜自分より速い世界に挑む者たち

『グラン・プリ』(Grand Prix)は、1966年に公開されたアメリカ映画。ジョン・フランケンハイマー監督によるF1ドラマであり、モナコからモンツァまで、1960年代のF1をほぼ“ドキュメント”のようにとらえた作品である。65mmフィルムとシネラマのスケールで撮…

『冒険者たち』〜夢が壊れたあとに始まる冒険、夢の残り火を抱えて

『冒険者たち』(Les Aventuriers)は、1967年に公開されたフランス=イタリア合作の冒険映画。監督はロベール・アンリコ。主演はアラン・ドロン、リノ・ヴァンチュラ、そしてヒロインのレティシアを演じるジョアンナ・シムカス。 ジョゼ・ジョヴァンニの小…

『夜の大捜査線』〜偏見の温度が溶ける夜、触れた瞬間、世界は変わる

『夜の大捜査線』(原題:In the Heat of the Night)は、1967年に公開されたアメリカ映画。監督はノーマン・ジュイソン。主演はシドニー・ポワチエとロッド・スタイガー。 ジョン・ボールの原作小説『夜の熱気の中で』を基に、1960年代アメリカ南部の町に残…

『郵便配達は二度ベルを鳴らす』〜一度目は誘惑、二度目は精算、欲望が鳴らす呼び出し音

『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(原題:Ossession)は、1943年のイタリアの犯罪ドラマ映画。ルキノ・ヴィスコンティ監督の長編処女作で、出演はマッシモ・ジロッティとクララ・カラマイなど。原題の「Ossession」は、イタリア語で「執着」の意味。 原作はジ…

映画『グランメゾン・パリ』と木村拓哉

木村拓哉のCMが凄いのは、商品と一体化し、自らの細胞を消費者に気づかれないように変えらているからだ。NikonのCMがわかりやすい。フルサイズでは剛健、入門一眼レフでは冒険心、デジカメでは家庭的と、そのカメラに合わせて眼光と眼差しを変えてきた。カメ…

レイジング・ブル〜黙示する拳、影を打つたび、人はやり直せる

スモークの中、フードをかぶって黙々とシャドー・ボクシングをするジェイク・ラモッタ。 リングに立つことは大金や名誉を掴むことじゃない。互いの未来を奪い合うこと。誰にも触れられぬ孤独に、悲劇に、自ら身を沈めること。それでも、誰にも届かぬ祈りを拳…

『風と共に去りぬ』〜過去を背負い直す、スカーレット・オハラの明日学

『風と共に去りぬ』(原題:Gone with the Wind)は、1939年公開のアメリカ映画。マーガレット・ミッチェルの大河小説をヴィクター・フレミングが映画化し、製作デヴィッド・O・セルズニックの総力戦で完成させたテクニカラーの叙事詩である。南北戦争と再建…

フェリーニ『道』〜愛の終わりに道が始まる、壊れた心が、世界を歩かせる

『道』(原題:La Strada)は、1954年に公開されたイタリア映画。監督・脚本はフェデリコ・フェリーニ。旅回りの力自慢ザンパノと、彼に買い取られる少女ジェルソミーナが、移動サーカスの世界を舞台に、離れ、交わり、壊れていく軌跡を描く。イタリア戦後の…

『市民ケーン』〜成功の果てに残る、ひとつの雪

『市民ケーン』(原題:Citizen Kane)は、1941年に公開されたアメリカ映画。監督・脚本・製作・主演をオーソン・ウェルズが務めた。25歳で撮ったデビュー作にして、映画史上最高傑作の一つと評される。新聞王チャールズ・フォスター・ケーンの死の謎「ロー…

凍傷すら生ぬるい—『八甲田山』が魅せる絶望の純度

映画『八甲田山』は、世界映画史において最高傑作の一つであり、クライマーにとっては呪いの映画である。一コマたりとも無駄がなく、169分の上映時間は究極の凝縮であり、崇高なる昇華。 映画は人間が成し得る最大の饗宴であり、『八甲田山』がそう。原作は…

『クロウ/飛翔伝説』〜復讐を超えた場所に、人は還る

『クロウ/飛翔伝説』(原題:The Crow)は、1994年に公開されたアメリカ映画。ジェームズ・オバーのグラフィックノベル『ザ・クロウ』を原作に、愛する者を奪われた男が冥界からよみがえり、死者の目を通してこの世界の不正と暴力に報いを下す姿を描くダー…

『春を背負って』〜歩いた分だけ、春になる、辿り着くのは頂上ではなく"居場所"

『春を背負って』は、2014年に公開された日本映画。『劔岳 点の記』で初監督を務めた撮影監督・木村大作が再びメガホンをとった長編第2作。原作は笹本稜平の同名小説。脚本も木村自身が共同執筆し、CGを一切使わず、立山連峰の四季を1年かけて撮影した。奥秩…

『ヒューゴの不思議な発明』〜月を忘れた魔術師、時間を信じた少年、時計塔の中のシネマ

『ヒューゴの不思議な発明』(原題:Hugo)は、2011年に公開されたアメリカ=イギリス=フランス合作のファンタジー映画。監督はマーティン・スコセッシ。原作はブライアン・セルズニックの小説『ユゴーの不思議な発明』。本作は、長年フィルム撮影にこだわ…

リュミエール『工場の出口』〜物語ではなく、時間、映画は“帰り道”から始まった

『工場の出口』(原題:La Sortie de l’usine Lumière à Lyon)は、1895年公開のフランス映画。ルイ・リュミエールが監督・撮影・製作を務めた、世界初の実写映画である。舞台はリヨン郊外のリュミエール兄弟の工場。仕事を終えた女性たちが門から出てくる。…

リュミエール兄弟『赤ん坊の食事』〜スプーン一杯の時間から、映画は始まった

『赤ん坊の食事』(原題:Le Repas de Bébé)は、1895年に制作されたフランスの短編モノクロ無声映画。ルイ・リュミエールが監督・撮影・製作を務め、兄オーギュスト・リュミエールとその妻、そして娘のアンドレ・リュミエールが出演している。 世界最初期の…

リュミエール『水をかけられた散水夫』〜世界最初の演出 、カメラが笑った日

『水をかけられた散水夫』(原題:L'Arroseur Arrosé)は、1895年にフランスで製作・公開された短編映画。モノクロ・サイレント。監督・製作・撮影は「映画の父」リュミエール兄弟が務めた。 出演は、庭師役にリュミエール家の実際の庭師フランソワ・クレー…

『台北暮色』〜孤独は風になる、暮色の中の空白、橋の上の呼吸

『台北暮色』(原題:強尼・凱克/英題:Missing Johnny)は、2017年に製作された台湾映画(日本公開2018年)。監督・脚本はホアン・シー。長年ホウ・シャオシェンの助監督として研鑽を積んだ彼女の長編デビュー作であり、台北という都市に漂う孤独と、交わ…

『灰とダイヤモンド』〜歴史の残光と、夜明けに間に合わなかった青春

『灰とダイヤモンド』(原題:Ashes and Diamonds)は、1958年公開のポーランド映画。アンジェイ・ワイダが、イェジ・アンジェイェフスキの同名小説を脚色し映画化。 ノルヴィッドの詩句「灰の底深く、燦然たるダイヤモンドの残らんことを」が、敗戦後の瓦礫…

『ターミネーター2』〜溶鉱炉の哲学、サムズアップで愛が起動する

『ターミネーター2』(原題:Terminator 2: Judgment Day, T2)は、1991年公開のアメリカ映画。ジェームズ・キャメロンが監督・脚本・製作を務め、シリーズ第1作を“運命は変えられる”という倫理へ反転させたSFアクションの金字塔である。液体金属の殺戮機T-1…

『モーターサイクル・ダイアリーズ』〜世界を見ることから、革命は始まる

映画『モーターサイクル・ダイアリーズ』が僕の人生を変えた。旅を通して世界の痛みと出会い、自分の小さな革命を始めた日。その“まなざしの誕生”を綴るレビュー。

『リコリス・ピザ』〜未熟という永遠、宙吊りの時間に宿る旋律

『リコリス・ピザ』(原題:Licorice Pizza)は、2021年公開のアメリカ映画(日本公開2022年)。監督・脚本・製作はポール・トーマス・アンダーソン。主演はアラナ・ハイムとクーパー・ホフマン。1973年のサンフェルナンド・バレーを舞台に、年齢も立場も違…

『ピンクの豹』〜優雅に転ぶ、不条理はエレガンスのかたちでやってくる

【映画レビュー】ブレイク・エドワーズ監督『ピンクの豹』(1963)—イタリアの雪原とローマを舞台に、貴族怪盗と空回り警部が織りなす“恋と宝石”のコメディ。実写×アニメの洒脱な序章とマンシーニの名曲が、勘違いの世界を軽やかに彩る。

『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』〜孤独の伯爵、石油の吸血鬼、PTAが描く資本主義の黙示録

『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(原題:There Will Be Blood)は、2007年公開のアメリカ映画(日本公開2008年)。監督・脚本はポール・トーマス・アンダーソン。原作はアプトン・シンクレアの小説『Oil!』。主演はダニエル・デイ=ルイスで、その鬼気迫る…

『春泥尼』〜俗と聖のはざまに立つ、ひとりの身体

『春泥尼』は、週刊サンケイ連載の今東光原作をもとに、「麻薬3号」の松浦健郎が脚色、「雌花」の阿部豊が監督した異色の文芸ドラマ。制作は日活。撮影は峰重義。主演は筑波久子、共演に二谷英明、左幸子、岡田眞澄ほか。 スタッフ 監督:阿部豊脚色:松浦健…

『エルネスト』〜革命とは他者の痛みを生きること、名を捨てて、魂に還る

『エルネスト』は、2017年に公開された日本・キューバ合作の青春伝記映画。監督は阪本順治。主演はオダギリジョー。 チェ・ゲバラと共に革命に身を投じた日系ボリビア人、フレディ・前村・ウルタードの生涯を、姉弟による伝記『革命の侍』をもとに映画化して…

実写版『秒速5センチメートル』〜アニメの光を、現実の風に変えた“記憶の呼吸”

『秒速5センチメートル』は、2007年に公開された新海誠の同名アニメーション映画を原作に、映像作家・奥山由之が監督を務めて実写映画化した、2025年製作のドラマ。 「SixTONES」の松村北斗が主人公・遠野貴樹を演じ、高畑充希、森七菜、宮﨑あおい、吉岡秀…

『パンチドランク・ラブ』〜プリンとハンマーで愛を撃ち抜け、癇癪と飛行のラブストーリー

『パンチドランク・ラブ』(原題:Punch-Drunk Love)は、2002年公開のアメリカ映画(日本公開2003年)。監督・脚本はポール・トーマス・アンダーソン。主演はアダム・サンドラー。コメディ映画で知られていたサンドラーが、抑圧と孤独を抱える男をユーモラ…

『ブギーナイツ』〜肉体と資本の祝祭、ポルノの黄金期と奈落

『ブギーナイツ』(原題:Boogie Nights)は、1997年公開のアメリカ映画(日本公開1998年)。監督・脚本はポール・トーマス・アンダーソン。1988年の短編『The Dirk Diggler Story』を自作で長編化し、実在のポルノ男優ジョン・ホームズをモデルに、1970年代…