
『スティング』(原題:The Sting)は、1973年公開のアメリカ映画。監督はジョージ・ロイ・ヒル。『明日に向って撃て!』で名コンビとなったポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが再共演し、娯楽映画としても完成度の高い一作となった。1930年代のアメリカを舞台に、詐欺師たちが巨大な権力と金を相手に、壮大な“だまし合い”を仕掛ける。
スタッフ
- 監督:ジョージ・ロイ・ヒル
- 脚本:デヴィッド・S・ウォード
- 製作:リチャード・D・ザナック、トニー・ビル、マイケル・フィリップス、ジュリア・フィリップス
- 音楽:マーヴィン・ハムリッシュ
- 原曲:スコット・ジョプリン
- 撮影:ロバート・サーティース
- 編集:ウィリアム・レイノルズ
- 製作会社:ビル/フィリップス・プロダクション
- 配給:ユニバーサル・ピクチャーズ
- 公開:1973年12月25日(アメリカ)/1974年6月15日(日本)
- 上映時間:129分
作品内で用いられた詐欺の手法を詳細に記した『The Big Con』は1940年に初版された。
原題のStingは本来は英語で「刺す」「刺すような痛みを与える」「―をずきずきさせる」「心を刺す、責める」などの意味だが、この映画では、「騙す、法外な代金を請求する、ぼったくる」の意味。
テーマ曲「エンターテイナー」はスコット・ジョプリンの『ジ・エンターテイナー』を編曲した曲で、映画、音楽ともに大ヒットした。
キャスト

- ヘンリー・ゴンドーフ:ポール・ニューマン
- ジョニー・フッカー:ロバート・レッドフォード
- ドイル・ロネガン:ロバート・ショウ
- スナイダー:チャールズ・ダーニング
- ビリー:アイリーン・ブレナン
- キッド・ツイスト:ハロルド・グールド
フッカーは当初ジャック・ニコルソンに出演が打診されていたが断られ、ロバート・レッドフォードに代わった。
撮影当時、ロバート・ショウは足首を負傷していたため、ロネガンを足を引きずって歩く人物という設定にした。
スナイダー刑事が、ビリーの手にビールをかけるシーンはアドリブである。
ポール・ニューマンが劇中、華麗にトランプを操るシーンがあるが、実際に操っているのはマジシャンのジョン・スカーンである。
あらすじ

1930年代のアメリカ。若い詐欺師ジョニー・フッカーは、小さな詐欺で大金を手に入れるが、それが大物ギャング、ドイル・ロネガンの金だったことを知る。師匠ルーサーは報復として殺され、フッカーは復讐を決意する。
彼が助けを求めたのは、かつて名を馳せた伝説的詐欺師ヘンリー・ゴンドーフ。二人は仲間を集め、ロネガンを完璧に欺くための、複雑で長期的な計画を立てる。列車、偽の賭博場、警察、FBIまでも巻き込みながら、芝居のような詐欺は少しずつ完成していく。
すべては計画通りに進んでいるように見えたが、裏切りと疑念が交錯し、事態は思わぬ方向へ転がっていく。
映画レビュー:だますことは、信じることの裏返し

『スティング』は、詐欺師の映画である。だが、ここで描かれるのは「人をだます技術」そのものではない。人がなぜ信じてしまうのか、その心の動きである。
ロネガンは冷酷で用心深い男だ。慈善家を装い、無駄な欲を見せず、他人を信用しない。それでも負ける。なぜか。自分だけは賢く、相手より一段上にいると信じているからだ。『スティング』が突くのは、その慢心だ。人は他人を信じる時だけでなく、「自分を信じすぎた時」にも騙される。
ゴンドーフとフッカーの詐欺は、暴力ではなく演出で成り立っている。偽の賭博場、偽の警官、偽の死。世界そのものを舞台装置に変え、相手を“物語”の中に閉じ込める。相手が物語を現実だと思い込んだ瞬間、勝敗は決まる。ここでは拳銃よりも、脚本のほうが強い。
音楽がこの映画の空気を決定づけている。スコット・ジョプリンの軽やかな旋律は、詐欺の緊張感を和らげ、観客に「これは深刻な復讐劇ではない」と語りかける。その明るさは、同時に残酷でもある。人が破滅していく過程を、楽しげなリズムで包み込むからだ。人生もまた、往々にしてそういうものだろう。
フッカーは若く、感情的で、何度も失敗する。ゴンドーフは老練で、常に一歩引いて全体を見ている。ふたりの関係は、師弟であり、同時に世代の対話でもある。若さは勢いを、老いは構造を持つ。詐欺とは、その両方が噛み合った時に初めて完成する。
終盤、観客自身もまた見事に騙される。誰が本当の敵で、誰が味方なのか。どこまでが芝居で、どこからが現実なのか。その境界が崩れた時、観客は気づく。自分もまた、このゲームに参加していたのだと。
『スティング』の爽快感は、勝利そのものにあるのではない。世界は完全には信用できないが、それでも人は物語を信じて生きている。その事実を、軽やかに、しかし鋭く突きつける点にある。
だまされることは、恥ではない。信じる力がある証拠だ。『スティング』は、そう言って微笑みながら、最後にもう一度こちらを欺いてみせる。そこに、この映画が今なお愛され続ける理由がある。
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