
『まむしの兄弟 懲役十三回』は、1972年公開の日本映画。監督は中島貞夫、脚本は高田宏治と中島貞夫。シリーズ第3作にして、時代設定を現代から昭和10年に移した異色作である。ゴロ政(菅原文太)と勝(川地民夫)が、吉原を舞台に、遊郭、浪曲、カフェー、浅草レビューといった昭和の雑踏の只中で、二人は刺客と間違えられ、騙され、笑われ、そして最後には弥之助を殺された怒りを抱えて「東竜会」に殴り込む。マシンガンとサイドカーの疾走で描かれる仇討ちは、シリーズの中でも最も荒唐無稽で、同時に痛切な“友情の証文”として刻まれる。
スタッフ
監督:中島貞夫
脚本:高田宏治、中島貞夫
製作:橋本慶一、俊藤浩滋、佐藤雅夫
音楽:広瀬健次郎
撮影:増田敏雄
編集:神田忠男
配給:東映
公開:1972年2月3日/94分
キャスト
政太郎(ゴロ政):菅原文太
勝:川地民夫
観音の弥之助:天知茂
雪子:光川環世
お珠:三島ゆり子
お熊:高橋とよ
チャボ松:雷門ケン坊
山根太三郎:嵐寛寿郎
岩淵琢馬:小池朝雄
ボレロの譲次:村井国夫
富永市太郎:北村英三
あらすじ
十三回目の服役を終えたゴロ政(菅原文太)と勝(川地民夫)は、刑務所で兄弟分となった弥之助(天知茂)を頼り、東京・浅草へと向かう。だが、到着早々、吉原東竜会の抗争に巻き込まれ、殺し屋と勘違いされて利用される羽目になる。無一文となった二人は、遊郭の小間使いに落ちぶれ、スリの老婆お熊(高橋とよ)に助けられながら命を拾う。
やがて政は、岡惚れのレビューガール雪子(光川環世)と出会うが、彼女は情夫譲次(村井国夫)に借金を背負わされ、東竜会に売り飛ばされてしまう。政と勝は雪子を救い出すが、その報復として弥之助が岩淵(小池朝雄)に殺される。
義兄弟は怒りに燃え、サイドカーを奪って東竜会の事務所へと突入。狂気のごとき殴り込みで組員たちをなぎ倒し、ついに仇を討つ。だが勝が「ワイら、ホンマに勝ったんやろか?」と問えば、政は「どうでもええやないか」と返す。二人はまた、懲役へと向かうのだった。
映画レビュー:『まむしの兄弟 懲役十三回』

本作が描くのは、義兄弟が「負い目」を返すために走る物語だ。弥之助の死は、組織の抗争というより、政と勝にとって「兄弟分として受けた恩」を踏みにじられた出来事である。だから彼らは国家の法や組織の仁義ではなく、もっと小さな回路に従って動く。関係に刻まれた線を守るために、暴力へ踏み出す。
シリーズを通して響くのは「懲役の反復」というリズムだが、本作ではそれに加えて「時代錯誤の場面転換」がある。昭和10年という舞台設定は、浅草レビューの華やぎと吉原の陰影を重ね、喜劇と悲劇を同時に走らせる。政と勝は遊郭に売られる雪子を奪い返し、弥之助の仇を討ち、再び刑務所へ戻る。その筋立ては荒唐無稽だが、同時に〈喜劇と悲劇の循環〉という古典的な構造を背負っている。
政と勝の暴れぶりは、法の秩序に照らせば無軌道だ。しかし、制度や組織が信用できない時代に、何を拠り所にするのか。二人の答えは単純だ。恩を受けたら返す。仇を討つ。裏切られたら笑い飛ばす。笑いと暴力が交互に現れる本作のリズムは、まさにその〈身体の哲学〉を体現している。
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まむしの兄弟の傑作シリーズ
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