シネマの流星

映画とは魔法。どこでもドアであり、タイムマシン。映画館の暗闇はブラックホール。スクリーンの光は無数の星たち。映画より映画館のファン

君の名前を奏でる湖〜『君の名は。』のカタワレドキ

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『すずめの戸締り』の公開を前にして新海誠の過去作がIMAX上映された。9月30日(金)の初日、トーホーシネマズ新宿で『君の名は。』を観た。金曜13時でも満席に近い。学生が多いのはリアルタイムで観ていないからだろう。良いワインが時間を栄養にするように、『君の名は。』の評価や価値は昇り続ける。その衝動を引きずって翌日、諏訪湖へ。そこに『君の名は。』を奏でる湖がある。『君の名は。』が最も心を震わせるのは、意志以外なにも持たざる高校生が運命を変えようとする、変えられる希望に満ちているからだ。そのパワーが濃集されるのが諏訪湖

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10月1日(土)、秋の行楽シーズン到来。三葉が初めて眼にした東京の風景は南新宿だった。バスタ新宿から向かうが、中央道が大渋滞。まさかの1時間半遅れで上諏訪駅に到着した。そこから歩いて40分ほどアスファルトを登る。近道が分かっていれば半分ほどの時間で行ける。立石公園が諏訪湖を見渡せるスポット。

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ようやく逢えた諏訪湖(糸守湖)。秋とは思えぬ気温、まだ夏の終わりだ。車やバイクが多い。どうやら今日は地元の祭りらしい。神輿を担ぐ地元民の方の威勢の声が響く。

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海は開かれた空間であり、湖は閉ざされた空間。内面を映す鏡。『君の名は。』は涙がテーマでもある。糸守湖は隕石の落下によってできたが、この水は涙の結晶でもある。秒速5センチメートルで繰り返し使われたのが水たまり。あれも涙の象徴だったが、『君の名は。』では糸守湖にスケールをアップさせた。

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夕暮れが迫る。なんという美しさ。夕陽が瞳のようにふたりを見守る。「糸守湖」は飛騨と新宿、過去と未来、瀧と三葉を結ぶ糸、それらを見守る湖。そして水を司る宮水家、三葉。そして三葉を見守る瀧。糸守湖は瀧と三葉。だから主人公のふたりそれぞれの名前に「水」がある。

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カタワレどき。2013年10月4日、この糸守湖にティアマト彗星が落下した。この美に吸い込まれたに違いない。隕石との衝突は前前前世から悠久のときを超えた瀧と三葉の出逢い。宮水家は代々好きな男性と身体が入れ替わったが、恋は実らず別の男性と結ばれてきた。その後、記憶を失い、悲恋だけ抱えたまま生きる。そして三葉の代になり、忘却の彼方から彗星に乗って忘れ去られた想いが接触した。

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18時半。陽が完全に沈む。空には三日月。日本一美しいトワイライト、日本一美しい物語が眠る湖。

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糸守湖を去るとき、花火が打ち上がった。諏訪湖の花火大会らしい。それは瀧と三葉の未来を奏でる祝砲だった。

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