シネマの流星

映画とは魔法。どこでもドアであり、タイムマシン。映画館の暗闇はブラックホール。スクリーンの光は無数の星たち。映画より映画館のファン

リュミエール『工場の出口』〜物語ではなく、時間、映画は“帰り道”から始まった

リュミエール『工場の出口』

『工場の出口』(原題:La Sortie de l’usine Lumière à Lyon)は、1895年公開のフランス映画。ルイ・リュミエールが監督・撮影・製作を務めた、世界初の実写映画である。舞台はリヨン郊外のリュミエール兄弟の工場。仕事を終えた女性たちが門から出てくる。それだけの、わずか40秒足らずの映像。そこには、映画のすべての始まりがある。

この作品は「シネマトグラフ」という撮影・現像・映写の機能を併せ持つ装置で撮られ、1895年12月28日、パリのグラン・カフェで行われた世界初の映画上映会で公開された。以後、リュミエール兄弟は『列車の到着』『水をかけられた散水夫』などを発表し、映画の歴史は歩み始める。

スタッフ

監督・製作・撮影:ルイ・リュミエール
配給:リュミエール社
公開:1895年12月28日(仏)
上映時間:約40秒

あらすじ

1895年3月の昼頃、工場の門が開き、労働を終えた人々が次々と出てくる。女性たちが笑いながら話し、帽子をかぶった男が自転車を押し、馬車が通り抜ける。人々はカメラを意識する者もいれば、まったく気づかない者もいる。ただ「帰宅する」。それだけの、日常の一瞬である。この工場の前のストリートは現在、「最初の映画通り」と呼ばれている。

映画レビュー:映画が最初に写したのは、“物語”ではなく“帰り道”

リュミエール『工場の出口』

『工場の出口』は、映画が最初に見つめた「人間の時間」を記録している。それは戦争でも愛でもなく、働くことを終えた人が家へ帰る瞬間だ。

リュミエールはドラマを作らなかった。カメラを据え、ただ世界を見た。映画はここから始まる。

「何かが起きる」のではなく、「何かが終わる」瞬間から。

出口とは、目的の達成ではない。

労働という制度の中から、ほんの一瞬だけ自分自身に戻る通路である。笑う者、走る者、立ち止まる者。そこには“演技ではない生”が流れている。

約40秒の映像は、世界に初めて「時間をそのまま見せる」装置を与えた。

映画とは、事件ではなく時間の存在を信じる技術。リュミエールが見せたのは、英雄でも恋人でもなく、「生きる人々」そのものだった。

『工場の出口』は、終わりから始まった映画である。誰もがどこかに帰ろうとしている。その当たり前の光景こそが、スクリーンの最初の奇跡だった。

リュミエール兄弟の映画初上映のリスト

  • 『工場の出口』(La Sortie de l'usine Lumière à Lyon)
  • 『ヴォルティージュ(乗馬芸)』(La Voltige)
  • 『金魚釣り』(La Pêche aux poissons rouges)
  • 『写真家会議の船出』(Le Débarquement du congrès de photographie à Lyon)
  • 『鍛冶屋』(Les Forgerons)
  • 『水をかけられた散水夫』(L'Arroseur arrosé)
  • 『赤ちゃんの食事』(Repas de bébé)
  • 『毛布の賭け』(Le Saut à la couverture)
  • 『リヨンのコルドリエ広場』(La Place des Cordeliers à Lyon)
  • 『海水浴』(Baignade en mer)

リュミエール兄弟の映画

リュミエール兄弟のドキュメント映画