
『赤ん坊の食事』(原題:Le Repas de Bébé)は、1895年に制作されたフランスの短編モノクロ無声映画。ルイ・リュミエールが監督・撮影・製作を務め、兄オーギュスト・リュミエールとその妻、そして娘のアンドレ・リュミエールが出演している。
世界最初期の家庭映画であり、同年12月28日にパリのグラン・カフェで行われたシネマトグラフ初の商業上映のプログラムの一つとして公開された。
スタッフ
- 監督・撮影・製作:ルイ・リュミエール
- 出演:オーギュスト・リュミエール(父)、マルゲリート・リュミエール(母)、アンドレ・リュミエール(娘)
- 公開:1895年12月28日(仏)
- 上映時間:約40秒
あらすじ
舞台はリヨン郊外の庭。オーギュストと妻が赤ん坊の食事を介助する様子を、ひとつの固定ショットで捉えている。庭のテーブルで、オーギュスト・リュミエールと妻が、赤ん坊アンドレに食事を与えている。父親がスプーンで口に運び、母親が微笑む。赤ん坊は時折こちらを見つめ、風が木々を揺らす。家族の小さな朝の時間。ただそれだけの映像である。
映画レビュー:世界が初めて「やさしさ」を記録した瞬間

『赤ん坊の食事』は、映画史の最初の「愛の場面」である。
誰も演じず、誰も語らない。だが世界は動き、風が木々を鳴らし、やさしさが記録された。映画はこの40秒の中にすべてを持って生まれた。
赤ん坊の口にスプーンが届く、そのわずかな距離の中に、人生が凝縮されている。
育てること、見守ること、待つこと。リュミエールのカメラは、人生の始まりを映すと同時に、人間が他者を見つめること始まりをも記録した。
『赤ん坊の食事』を観ると、映画と写真の違いがはっきり見えてくる。写真は「瞬間を止める」技術であり、絵画は「世界を解釈する」技術。映画はそのどちらでもない。映画は「時間を見せる」技術である。写真は“目を閉じる”ことで一瞬を捕える。映画は“目を開け続ける”ことで、時間を捕える。
『工場の出口』が「社会の時間」なら、『赤ん坊の食事』は「家庭の時間」。映画は誕生の瞬間から、すでに公共と私的、群衆と家族、労働と愛情のあいだを往復していた。
『赤ん坊の食事』には、未来も過去もない。ただ“いま”がある。その“いま”を保存する技術が、映画という芸術の最初の呼吸だった。
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