
『フェルメールの謎 ~ティムの名画再現プロジェクト~』(原題:Tim's Vermeer)は、2013年にアメリカで制作されたドキュメンタリー映画。17世紀オランダの画家ヨハネス・フェルメールの超写実的な絵画は、いかにして描かれたのか。美術の専門家ではない発明家ティム・ジェニソンが、その謎に挑む。Amazonプライムビデオなどで配信中。
スタッフ
- 監督:テラー・ネルスン
- 脚本:ペン・ジレット、テラー・ネルスン
- 出演:ティム・ジェニソン、ペン・ジレット
- 制作:High Delft Pictures
- 配給:Sony Pictures Classics(アメリカ)
- 公開:2014年1月31日(アメリカ一般公開)
- 上映:80分
キャスト

- ティム・ジェニソン
- ペン・ジレット
- マーティン・マリナン
- デヴィッド・ヒューストン(美術史家)
- フィリップ・ステッドマン(ロンドン大学教授)
あらすじ

画家でもないアメリカ人発明家ティム・ジェニソンは、かねてから疑問を抱いていた。
なぜフェルメールの絵画は、写真のように精緻で、光までも描き出せるのか? 画材や技術が限られていた17世紀に、どうしてあのような描写が可能だったのか?
ティムは自らの技術的知見をもとに、光学機器と鏡の組み合わせによって、フェルメールがカメラ・オブスキュラのような道具を使っていたのではないかと仮説を立てる。そして一切の絵画経験なしに、《音楽の稽古》の“再現”に挑む。
部屋の構造、家具、布、衣装、窓の光まで。すべてを17世紀当時の状態で再現し、鏡と絵筆を使って描いていくプロセスには、狂気と執念、そしてフェルメールへの愛がにじむ。「フェルメールは天才か、技術者か?」。科学と芸術、創造と再現。“描く”とはどういうことかをあらためて考えさせてくれる、知的興奮に満ちた一本。
映画レビュー

まず見事なのは、アメリカ的なクレイジーさとエンタメ精神の強さ。
油絵を描いたことすらない発明家ティムが、いきなりフェルメールを完璧に再現しようというのだから、まさに前代未聞のプロジェクト。
ティムは17世紀のオランダ黄金時代の技術を徹底的に調査し、当時と同じ顔料、光学機器、そしてアトリエをサンアントニオに再現する徹底ぶり。
フェルメールの絵は他の画家のような下書きの跡がない。カンヴァスに一気に描くというのは初めて知った。鏡や望遠鏡、カメラの原型など、光学装置や投影装置が発展したため、現実世界の色が忠実に再現され、写実的な絵画が発展したという背景も面白い。
映画的に面白いのは、《真珠の耳飾りの少女》や《牛乳を注ぐ女》や《絵画芸術》ではなく、《音楽の稽古》に着目したこと。この絵は、写実性の高さこそフェルメール随一だが、一般にはあまり知られていない。
しかも、この絵を所蔵しているのはバッキンガム宮殿。ティムは取材を申し込むも拒否され、粘り強く抗議を続け、最終的に30分限定の“謁見”を許されるという展開には、ドキュメンタリーとしてのドラマもある。残念ながら、詳細を描けなかったのは、イギリス王室のNGだろう。
そして、実物の絵を目にしたティムは、自分が挑もうとしていることのとてつもなさと、フェルメールの偉大さを思い知る。この気づきの瞬間に、芸術ドキュメンタリーとしての深みが宿る。アートとは、常に絶望と挫折から始まるものなのだ。
そして絵画を描き始めて82日目、フェルメールのあまりの細密描写に気が遠くなり、絵を描く気力を失う。「映画の撮影でなければ投げ出していた」と語るが、これは映画的演出があったにせよ、本音だろう。そして制作開始130日目にして、《音楽の稽古》が完成する。初めての油絵にして、絨毯はフェルメールより上手いと専門家から言わしめる。

プロジェクト開始から1825日。この映画は、「フェルメールは理解を超えた天才ではなく、理解できる天才」だと結論づける。なによりも、途方もない再現プロジェクトにお疲れ様と言いたい。
そして、この映画の本当の功績は、フェルメールが光学技術を使っていたことを証明したこと以上に、「画家とは、閃きの人ではなく、努力の人である」という当たり前の事実を、実感させてくれる点にある。
フェルメールの作品は30数点しか現存していない。もしティムと同じ描き方をしていたとすれば、1年に2点描くのが限界だったはずだ。
そしてまた、1日1枚のペースで絵を描いていたゴッホもまた、才能以上の努力をした画家である。膨大な構想、膨大な下書き、膨大な回り道、そして膨大な屍(失敗作)を重ねた先に、大傑作を生み出した。
世間はアーティストを「天才的な感覚の閃き人間」だと錯覚している。本当に傑作を残す人間は、ひらめき以上に努力を積み重ねる人なのだ。
この映画は、そのことを静かに、だが確実に証明してくれる。
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