シネマの流星

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『パンチドランク・ラブ』〜プリンとハンマーで愛を撃ち抜け、癇癪と飛行のラブストーリー

『パンチドランク・ラブ』〜プリンとハンマーで愛を撃ち抜け、癇癪と飛行のラブストーリー

『パンチドランク・ラブ』(原題:Punch-Drunk Love)は、2002年公開のアメリカ映画(日本公開2003年)。監督・脚本はポール・トーマス・アンダーソン。主演はアダム・サンドラー。コメディ映画で知られていたサンドラーが、抑圧と孤独を抱える男をユーモラスかつ切実に演じ、従来のイメージを一変させた異色のロマンティック・コメディ。ヒロインにエミリー・ワトソン、さらにフィリップ・シーモア・ホフマンらが出演する。

スタッフ

  • 監督:ポール・トーマス・アンダーソン
  • 脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
  • 製作:ポール・トーマス・アンダーソン、ダニエル・ルピ、ジョアン・セラー
  • 音楽:ジョン・ブライオン
  • 撮影:ロバート・エルスウィット
  • 編集:レスリー・ジョーンズ
  • 製作会社:レボリューション・スタジオズ、ニュー・ライン・シネマ
  • 配給:コロンビア ピクチャーズ(米)、東宝東和(日)
  • 公開:2002年11月1日(米)、2003年7月26日(日)
  • 上映時間:95分
  • 製作国:アメリカ合衆国

キャスト

『パンチドランク・ラブ』〜プリンとハンマーで愛を撃ち抜け、癇癪と飛行のラブストーリー

  • アダム・サンドラー(バリー・イーガン)
  • エミリー・ワトソン(リナ・レナード)
  • フィリップ・シーモア・ホフマン(ディーン・トランブル)
  • ルイス・ガスマン(ランス)
  • メアリー・リン・ライスカブ(エリザベス)

あらすじ

『パンチドランク・ラブ』〜プリンとハンマーで愛を撃ち抜け、癇癪と飛行のラブストーリー

ロサンゼルス郊外に暮らすバリー・イーガン(アダム・サンドラー)は、ラバーカップなど珍妙な商品を扱う小さな会社を経営している。内気で情緒不安定な彼は、口うるさい姉たちに囲まれて育ち、女性に対して不信感を抱いていた。最近は航空会社のマイルが貯まるプリンを大量購入することに熱中している。
ある日、姉が紹介したリナ(エミリー・ワトソン)と出会い、彼女の静かな優しさに惹かれていく。だが一方で、思わず掛けたテレフォンセックスがもとでクレジットカードのトラブルに巻き込まれ、悪質なゆすり屋(フィリップ・シーモア・ホフマン)に狙われる。混乱の中でバリーは、自分を守り、リナとの関係を大切にしようと決意する。

映画レビュー:愛は暴力の中でしか立ち上がらない

『パンチドランク・ラブ』〜プリンとハンマーで愛を撃ち抜け、癇癪と飛行のラブストーリー

『パンチドランク・ラブ』が描く愛は、静けさや安定とは無縁だ。むしろ暴力と混乱のただ中からしか立ち上がらない。バリーは日常の圧迫に耐えきれず、姉たちの声や社会の雑音に押し潰され、感情を爆発させては窓ガラスを叩き割る。その姿は発狂ではなく、むしろ尾崎豊の“卒業”。抑圧された青年が、自分を縛る檻を力任せに壊していく儀式なのだ。

プリンを買い続けてマイルを貯める執着は、資本主義を逆手に取る小さな反逆だ。汗水流した金ではなく、プリンの特典で空を飛び、恋人に会いに行く。この奇妙な飛び道具こそ、PTAの発想の飛躍であり、愛の不条理な推進力を象徴している。

電話を通じた罵声の応酬は、バトルのリングだ。フィリップ・シーモア・ホフマン演じるゆすり屋とのやり取りは、拳ではなく言葉と怒声で繰り広げられるマスボクシングのように展開し、そこでバリーは初めて他者と対等に殴り合う強度を獲得する。ハンマーを振るう手と同じくらい、その声は彼の存在を世界に刻印する。

バリーは癇癪を起こすたびに何かを失っていく。その喪失の連続の中でしか愛に辿り着けない。『パンチドランク・ラブ』は、愛を癒しではなく衝突として描く。孤独な男が、怒りと混乱を経由して初めて他者と結び直す姿を、アンダーソンはプリンとハンマーという奇妙な道具立てで描き切った。愛は安らぎではない。愛とは、暴力と喪失を肯定しながら、それでも誰かに向かって飛び立つための最も激しい力なのだ。

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