シネマの流星

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『ヒューゴの不思議な発明』〜月を忘れた魔術師、時間を信じた少年、時計塔の中のシネマ

『ヒューゴの不思議な発明』〜月を忘れた魔術師、時間を信じた少年、時計塔の中のシネマ

『ヒューゴの不思議な発明』(原題:Hugo)は、2011年に公開されたアメリカ=イギリス=フランス合作のファンタジー映画。監督はマーティン・スコセッシ。原作はブライアン・セルズニックの小説『ユゴーの不思議な発明』。本作は、長年フィルム撮影にこだわってきたスコセッシが初めてデジタルで撮影を行った作品であり、映画史へのオマージュであると同時に、“映画を信じ続ける者たち”への賛歌でもある。

スタッフ

『ヒューゴの不思議な発明』〜月を忘れた魔術師、時間を信じた少年、時計塔の中のシネマ

監督:マーティン・スコセッシ
脚本:ジョン・ローガン
原作:ブライアン・セルズニック『ユゴーの不思議な発明』
製作:グレアム・キング、マーティン・スコセッシ、ジョニー・デップ ほか
撮影:ロバート・リチャードソン
音楽:ハワード・ショア
編集:セルマ・スクーンメイカー
配給:パラマウント映画
公開:2011年11月23日(米)/2012年3月1日(日本)
上映時間:126分

キャスト

『ヒューゴの不思議な発明』〜月を忘れた魔術師、時間を信じた少年、時計塔の中のシネマ

エイサ・バターフィールド(ヒューゴ・カブレ)
ベン・キングズレー(ジョルジュ・メリエス)
クロエ・グレース・モレッツ(イザベル)
サシャ・バロン・コーエン(鉄道公安官)
ジュード・ロウ(ヒューゴの父)

あらすじ

『ヒューゴの不思議な発明』〜月を忘れた魔術師、時間を信じた少年、時計塔の中のシネマ

1930年代のパリ。モンパルナス駅の時計塔に隠れて暮らす孤児ヒューゴは、亡き父の遺した壊れた機械人形を修理しながら、駅の歯車を巻く日々を送っていた。ある日、玩具屋で部品を盗もうとして見つかり、手帳を没収される。店主ジョルジュは、手帳に描かれた人形の図面を見て動揺する。ジョルジュの養女イザベルの協力で手帳を取り戻したヒューゴは、人形を修理し、ハート形の鍵で起動させる。すると人形が描いたのは「月にロケットが突き刺さる」絵。かつて父が語っていた映画『月世界旅行』のワンシーンだった。そのサインには「ジョルジュ・メリエス」と記されていた。かつて夢を作った映画の魔術師は、今は駅の片隅で記憶を封じて生きていた。少年と老監督をつなぐ歯車が、再び“映画”という時間を動かし始める。

映画レビュー:メリエスが夢を創り、スコセッシが夢を修理した

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『ヒューゴの不思議な発明』は、“映画とは何か”という問いに対する、スコセッシの優しい答えである。

それは芸術論ではなく、壊れたものをもう一度動かすこと。

ヒューゴは時計台の中で暮らし、歯車を直し続ける少年だ。直そうとしているのは機械人形だけではない。壊れた時間、止まった夢、忘れられた記憶。そして、映画そのものだ。

ジョルジュ・メリエスは現実に敗れた夢の人である。かつて月にロケットを撃ち込み、想像の世界を開いた男が、戦争と時代の流れに押し流され、玩具屋として生きるしかなくなった。

ヒューゴは、その老人の中にまだ息づく“映画の魂”を見つける。機械に不要な部品はない。世界に不要な人間はいない。心も思い出も、もとには戻らない。それでも今を生きる中で修復できる。「誰もが何かの部品なんだ」と語るヒューゴの言葉の通り、世界は歯車のようにつながっている。人も、夢も、映像も、互いを回すために存在している。

スコセッシはデジタルカメラでこの物語を撮った。それは偶然ではない。メリエスがフィルムで夢を創り、スコセッシがデジタルでその夢を再び蘇らせる。映画は変わったが、「世界をもう一度信じたい」という願いは変わらない。

歯車と光、煙と影が織り成す圧倒的な映像美が広がる。しかし、スコセッシが見せたいのはテクノロジーの進化ではなく、「人が想像する力の持続」だ。メリエスがかつて“夢を映した”ように、スコセッシは“夢を修理する”映画を撮った。

『ヒューゴの不思議な発明』は、映画という機械の心臓部に触れる作品だ。それは壊れた時計の中でまだ動こうとする小さな歯車のように、静かに世界を回していく。

人が夢を見る限り、映画は止まらない。そしてスコセッシは、その歯車のひとつとして、今も回り続けている。

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ジョルジュ・メリエス『月世界旅行』