シネマの流星

映画とは魔法。どこでもドアであり、タイムマシン。映画館の暗闇はブラックホール。スクリーンの光は無数の星たち。映画より映画館のファン

『ラ・シオタ駅への列車の到着』〜世界がスクリーンを突き破った日

『ラ・シオタ駅への列車の到着』〜世界がスクリーンを突き破った日

『ラ・シオタ駅への列車の到着』(原題:L’arrivée d’un train en gare de La Ciotat)は、1896年に公開されたフランスの短編モノクロ無声映画。リュミエール兄弟が監督・製作・撮影を務めた。フランス南部の港町ラ・シオタ駅に列車が到着する様子を、わずか50秒間の固定ショットで記録している。

世界初の“動く風景”として知られ、上映当時、観客がスクリーンに迫る列車に驚いて逃げ出したという逸話は、映画史に残る象徴的なエピソードとなった。

スタッフ

監督・製作・撮影:リュミエール兄弟
公開:1896年1月25日(リヨン)
上映時間:約50秒
製作国:フランス

あらすじ

海辺の町ラ・シオタ。カメラはホームの端に据えられ、奥から列車がゆっくりと近づいてくる。煙が風に流れ、駅に集まる人々は次第にカメラの前へと歩み出る。乗客が降り、出迎える家族が抱き合い、子どもが笑う。列車は止まり、やがて画面の外へ消えていく。

映画レビュー:映画が観客に向かって歩み出した日

『ラ・シオタ駅への列車の到着』〜世界がスクリーンを突き破った日

『ラ・シオタ駅への列車の到着』は、リュミエール兄弟が『工場の出口』など世界最初の上映に続いて、「映画とは何か」を世界に示した作品である。

それは、人や物、物語が観客のほうへ迫ってくることだ。リュミエール兄弟は、列車が去っていく後ろ姿ではなく、こちらへ向かって突き進む“迫真”を撮った。

観客にとって、それはただの風景ではなかった。世界が突然、スクリーンを突き破って“こちら側”に踏み出してきたのである。

これが映画である。光と影の組み合わせにすぎなかった映像が、命を持つ存在として人間に向かって歩き出した。映画の神様がリュミエール兄弟に最初の魂を託した。

映画館の暗闇とは、そのための入口であり、出口でもある。観客は光を求めてその闇に足を踏み入れ、映画はその歩みに応じてこちらへ歩み寄る。

『ラ・シオタ駅への列車の到着』は、その「出会い」の記録だ。映画を観るには、観客は映画館に歩み寄らなければいけない。映画館の内蔵に入り込まなければいけない。そうすれば、映画は歩み寄ってくる。

リュミエール兄弟の傑作映画

リュミエール兄弟のドキュメント映画

観客が逃げ出す場面を再現した映画